写真の現在

 今日はたまっている仕事を片付けられないまま、書評の仕事のため(と個人的理由)から、東近美の「ドイツ写真の現在」展に行ってきました。同時に「アウグスト・ザンダー」展もあわせて鑑賞。「ドイツ写真」というジャンルがあるわけではないけれど、ベッヒャー・シューレ(派)は確実にドイツを代表する動向として認識されている。今美術はドイツが熱い。そう言っても過言ではないほど、ドイツ人の、もしくはドイツ出身のアーティストが活躍している。

 試しにファイドンから出ている『アート・ナウ』に登場するアーティストの出身を眺めてみると、かなりの数ドイツ人の名が挙がる。確かにこの本にはヨーロッパ人至上主義という性格がついて回るので必ずしも当てにはならないが(アジアはアラーキーと森真理子の二人のみ)、そのヨーロッパの中でもこれほどドイツ人が名を連ねるのも珍しい。いや、もっと驚くべきはフランス人アーティストの少なさのほうかもしれない。廉価版『アートナウ』にはなんとフランス人が一人しかいない!もしこれから美術の勉強をするなら、英語に加えてドイツ語をやっておくと大変重宝するかもしれない。もちろん長所・短所はあるけれど。

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 今回の展覧会出品作品を分類するとすれば、ベッヒャー派に連なるリアリズム系と、トーマス・デマンドやロレッタ・ルックスなどの写真を加工した擬似リアリズム系、そしてそのどちらにも入れがたいヴォルフガング・ティルマンス。

 ベッヒャー派は20年代に活躍したアルベルト・レンガー=パッチュの影響が濃いことを、3階の常設展で思い知らされた。「新・即物主義(ノイエ・ザッハリヒカイト)」という文芸運動の一環として登場した美術動向は、同時開催のアウグスト・ザンダーの写真にも見て取れる。それは還元すればベッヒャー夫妻の「タイポロジー(類型学)」ということになるだろう。類似した要素の写真を一つの束として、それらを併置し比較する手法は、写真の性質を存分に発揮する方法論として有効だ。

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【ベルント&ヒラ・ベッヒャー】


 それを踏襲するにせよ反発するにせよ、彼らの生徒、アンドレアス・グルスキーは写真的同時性を強調した共時的タイポロジーに思える。ベッヒャー夫妻はドイツ各地の溶鉱炉を同様の角度から撮影し、それを組写真の形で9~15枚並べる。対するグルスキーは一枚の写真に、広角レンズの俯瞰的撮影で収めてしまう。立体交差のプラットフォームや格子状に組まれた牧場など、そこには人間の視覚には収まりきれない世界の広大さが映し出されている。

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【アンドレアス・グルスキー】
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【アルベルト・レンガー=パッチュ】


 トーマス・デマンドは今年の春、NYのMOMAで大規模な個展を開いていたが、今回の出品作はほぼそのときのもので構成されていた。最初彫刻を学んでいたデマンドが、写真を撮り始めたのがおよそ10年前。現実の風景をすべて紙でつくり、それを写真に撮る。遠目から見ると一見普通の室内が映し出されているかに見えて、あまりにも清潔すぎることに気がつくと、途端に偽りの現実を思い知らされることになる。それはスーパーリアリズムの絵画体験に近い。

 だが衝撃度で言えば、常設展に出ていたゲルハルト・リヒターの写真作品の方が圧倒的だった。それはエッシャー風の幾何学図形を木製の模型で作って写真に撮ったものだが、そもそも3次元におこせるはずのない図形をあたかも構成したかのように加工し、写真として提示している。デマンドは作品の経緯を知って納得できるが、リヒターはそれがどのようなものかを把握した後も、如何ともしがたい疑念が最後まで付きまとう。そして写真の恐ろしさを思わせる。その意味でデマンドは物足りなさが残る、というかもうひとひねり欲しいところだ。

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【トーマス・デマンド】
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【ゲルハルト・リヒター】


 知り合いの人はこの展覧会の展示を「ただ並べただけ」と批判的だったけど、シュミットの展示は一点一点を黒いフレームに収めて横一列に並べる手法が圧倒的でよかったと思う(この手法は一度ドイツで行われているらしい)。ただ作家によって偏差が出ていたのが少々いただけない。明らかに前半に力を入れすぎている。リカルダ・ロッガンなんか端っこに押し込められてなんだか可哀想になった。

 近美の良いところは、展覧会カタログに力を入れているところ。今回のカタログは無地の厚紙を使い、かつあえて背がついていない凝った作り。+箱入りです。そのくせ結構安いのがいい。ところで採算取れるんだろうか?

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by jaro050 | 2005-11-27 02:02 | 展覧会報
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